大規模修繕工事の談合が奪う、
マンションの未来
― 公正取引委員会の行政処分と、法改正で広がる
「マンション終活」の選択肢 ―
1.公正取引委員会が大規模修繕工事の談合に行政処分
2026年9月28日、公正取引委員会は、関東1都6県のマンション管理組合が設計コンサルタント会社「リノシスコーポレーション」または「翔設計」に委託して発注した大規模修繕工事について、独占禁止法第3条違反(不当な取引制限)を認定し、排除措置命令と課徴金納付命令を行いました。対象となる工事は171マンションに及びます。
違反認定は実数42社、排除措置命令は実数38社、課徴金納付命令は実数37社で、課徴金総額は16億3,788万円です。命令対象は重複を除き39社です。課徴金の納付期限は2027年4月30日とされています。
認定された仕組みは、設計コンサルタント会社と施工業者が事前に受注予定者を決め、他社が高い見積額を提示したり入札参加を見送ったりして競争を制限するというものです。公取委は、施工業者から設計コンサルタント会社に工事請負金額の一定割合の手数料が支払われていた事実も確認し、その平均が約5%であったと説明しています。これは、管理組合のために公正な業者選定を支援すべき立場と、施工業者から報酬を受ける立場との深刻な利益相反を示す問題です。
排除措置命令では、受注予定者の決定を行わないこと、再発防止措置の決議、対象管理組合への通知、独占禁止法遵守の行動指針や研修などが求められています。なお、今回の認定は公取委が特定した工事・事業者に関するものであり、掲載企業が関わったすべての工事について談合が認定されたという意味ではありません。
今回の行政処分は、特定の事業者による違反行為を認定したものですが、マンション大規模修繕工事の発注において、設計コンサルタントと施工会社の独立性や、業者選定の透明性を確保することの重要性を改めて示しています。管理組合としては、会社の規模、知名度や実績だけに頼るのではなく、公正な競争が働く仕組みになっているかを確認することが重要です。
2.行政処分の対象企業一覧
以下は公正取引委員会の2026年9月28日公表資料に基づく一覧です(株式会社の表記は省略)。
排除措置命令のみ(設計コンサルタント2社)
リノシスコーポレーション/翔設計
排除措置命令・課徴金納付命令の両方(施工業者36社)
| 長谷工リフォーム | シミズ・ビルライフケア | 日本ハウズイング |
| 日装・ツツミワークス | SMCR | 伊勝 |
| 建装工業 | ティーエスケー | リノ・ハピア |
| J‐BISメンテナンス | セラフ榎本 | シンヨー |
| 大和 | リニューアルウィングス | 東急コミュニティー |
| アイピー21 | ヤシマ工業 | 大京穴吹建設 |
| ヤマギシリフォーム工業 | 合人社エンジニアリング | NAKAMURA |
| ニットクメンテ | ニーズワン | アール・エヌ・ゴトー |
| 太陽 | エム・トラスト | 大塗 |
| リソー | LINK’S | アルテック |
| 南海工業 | カズキ | 富士防 |
| サカクラ | ダイワテック | イワサ・アンド・エムズ |
課徴金納付命令のみ
ワイ興産(228万円)
注:違反認定42社には、命令対象外のYKK APラクシー(課徴金減免制度により免除)、旧日装、旧日本ハウズイングも含まれます。旧法人の違反行為に係る課徴金は吸収合併後の法人に納付が命じられています。
※本一覧は、公正取引委員会が2026年9月28日に公表した行政処分の内容を紹介するものであり、掲載企業が関与したすべての工事について、談合等の違反行為が認定されたことを意味するものではありません。
3.私たちは長年、この業界の深い闇に警鐘を鳴らしてきました
マンション管理相談センターは、長年にわたり、大規模修繕工事における談合や不透明な業者選定、設計コンサルタントと施工会社の利益相反の危険性を指摘してきました。今回の行政処分は、そうした問題が現実に存在したことを、具体的な工事と事業者について公的に明らかにしたものです。
多くの管理組合は、工事内容や適正価格を自ら判断することが難しく、専門家の助言を頼りにしているのが実情です。その専門家が施工会社と裏で利害を共有すれば、見かけ上は複数社の競争入札でも、公正な価格競争が働きません。重要なのは会社の知名度だけではなく、見積条件の統一、候補会社の選び方、情報管理など、選定過程そのものの透明性です。
私たちは、管理組合が主体となり、必要な工事を適正な価格で実施するための仕組みづくりを提供してきました。設計監理方式自体が問題なのではありません。管理組合の利益を守るべき専門家の公平性・信頼性が失われることが問題なのです。大規模修繕工事以外でも、管理組合の立場から、工事の必要性、仕様、見積価格、業者選定の公正性を客観的に検証します。管理会社の提案が妥当であればその妥当性を評価し、疑問がある工事や割高な見積りには根拠を示して改善を求めます。私たちの役割は管理組合に代わって決定することではなく、理事会の判断を支える「参謀役」となることです。
4.談合が奪うのは修繕積立金だけではない
談合によって工事費が割高になれば、区分所有者が長年積み立ててきた修繕積立金が必要以上に使われます。工事費の高騰や居住者の高齢化が進む中で、この損失は将来の大規模修繕、建替え、全面改修、売却、解体などの選択肢を狭めるおそれがあります。
法律がマンションの「出口」を増やしても、その実行に必要な資金がなければ選べません。談合は目先の工事費の問題にとどまらず、マンションの将来の選択権まで奪いかねないのです。
5.談合問題と令和7年の区分所有法等改正と「マンション終活」を考える
令和7年の区分所有法等の改正により、老朽化していくマンションの将来について、建替えだけでなく、一棟リノベーション、建物と敷地の一括売却、解体後の土地売却など、複数の出口を多数決で選べるようになったことは、大きな前進です。
しかし、法律が選択肢を用意しても、それを実行するための資金がなければ、実際には選べません。建替えにも、全面改修にも、解体にも、工事費だけでなく、調査・設計・仮住まい・権利調整などの費用も必要です。
その大切な修繕積立金が、談合による割高な大規模修繕工事で失われたとすれば、被害は工事価格の差額だけではありません。将来の建替えや売却、解体を選択するための資金まで失われ、次の修繕も、建替えも、解体もできないという、いわば「進むことも、終わることもできない状態」に陥るおそれがあります。
その意味で、談合は現在の区分所有者に余分な負担を生じさせるだけでなく、マンションの終活を困難にし、将来の選択権を奪う結果につながり得ます。法律が増やした出口を実際に選べるようにするため、住民の共同財産である修繕積立金を談合や利益相反から守ることが必要です。
マンション終活の主な選択肢
| 選択肢 | 何をするのか | 法律改正前 | 2025年改正後 | 選択した後 |
|---|---|---|---|---|
| 修繕して使い続ける | 外壁・防水・設備などを修繕し、建物の寿命を延ばす | 従来から可能 | 変更なし | 現在のマンションに住み続ける |
| 建替える(建替え) | 建物を解体し、新しいマンションを建てる | 原則として、区分所有者数・議決権の各5分の4以上の賛成 | 原則5分の4以上。耐震性不足などの客観的事由がある場合は4分の3以上、一定の災害では3分の2以上に緩和 | 新しいマンションに住む、または権利を売却する |
| 躯体を残して全面改修する(建物更新・一棟リノベーション) | 建物の躯体を残し、共用部分とすべての住戸を一体的に大改修する | 原則として全員の同意が必要 | 同上 | 既存の躯体を活用しながら、建物全体を再生する |
| 建物と土地をそのまま売る(建物敷地売却) | マンションと敷地を一括して不動産会社などに売却する | 原則として全員同意。ただし、要除却認定を受けた一定のマンションには多数決による特例があった | すべてのマンションで原則5分の4以上。客観的事由がある場合は4分の3以上、一定の災害では3分の2以上に緩和 | 区分所有関係を解消し、売却代金を区分所有者に分配する |
| 建物を解体してから土地を売る(建物取壊し敷地売却) | 管理組合側で建物を解体し、更地にして敷地を売却する | 原則として全員の同意が必要 | 原則5分の4以上。客観的事由がある場合は4分の3以上、一定の災害では3分の2以上に緩和 | 解体費を負担した上で土地を売却し、代金を区分所有者に分配する |
| 改正のポイント | 従来は事実上、「修繕して使い続ける」か「建替え」が中心だった | 建替え以外の選択肢は、原則として全員同意が必要で、実現が難しかった | 建替え、全面改修、建物・敷地の一括売却、解体後の敷地売却などを、多数決で選べるようになった | マンションの状況、資金、土地価格、住民の希望に応じて、将来の方向を選択できる |
※決議要件は制度の概要を示したものです。実際の適用に当たっては、法令の施行日、客観的事由、災害時の特例その他の法定要件を個別に確認する必要があります。
マンション終活の相談とコンサルティングの実例
当社が実際に相談を受け、コンサルティングを行った「マンションの終活」に関する実例です。いずれも、そもそも、マンションの終活がいかに大変か?を示しています。(守秘義務に配慮し、個別のマンションが特定されない範囲で概要を記載しています。)
(1)定期借地権マンションで解体費不足を検証した事例
東海地方の定期借地権60年、小規模のマンションです。定期借地契約上の条件では、借地期間満了時に建物を解体して地主に土地を返還するか、新築時の約120万円/戸の保証金を全戸が放棄して建物付きで地主に返還する選択肢(つまり、地主はその後、賃貸マンションのオーナーになる)がありました。第1回大規模修繕工事のコンサルティングと長期修繕計画の作成を依頼された当時、解体積立金は1戸当たり月額600円程度でした。解体するには、建築当時には想定していなかったアスベスト対策が必要で、その費用を含む解体費を実勢価格で調査したところ、解体費は高額となり、修繕積立金・解体積立金・保証金をすべて合わせた積立額をしても、数千万円不足することが分かりました。そこで、築45~50年頃の第3回目の大規模修繕を手厚く行い、賃貸マンションとして使える状態にして、地主に返還する計画と、将来の解体を前提に最低限の工事にとどめる計画とを比較しました。その結果、解体するより建物を存続させる方が総負担を抑えられるとの結論になりました。机上では「解体積立金」と言う独立会計があるため、資金が足りると思い込んでいたけれど、実際には、不確定要素が多いことを示す事例です。
(2)建替えに適した都心マンションでも合意できなかった事例
東海地方の都市部かつ地下鉄駅近くにある小規模のマンションです。築40年目の第3回大規模修繕工事についてコンサルティングを引き受けました。大規模修繕工事を実施すると積立金がほぼ枯渇し、その後に修繕積立金を大幅に値上げする必要がありました。そこで、かねてより住民の間で、話題に上っていた「建替え」を検討したいと言う依頼があり、費用をかけて、本格的に「建替えシミュレーション」を行いました。具体的には、建替え時の容積率緩和等を活用して戸数を増やし、新たな住戸の売却益で既存住民の負担を軽減する案を検討しましたが、それでも1世帯当たり約1,000万円の負担が必要でした。若い世代を中心に賛成意見が多かった一方、引越しや仮住まいへの抵抗、資金負担への不安を理由とする反対があり、最終的に建替えを断念し、大規模修繕工事を選択しました。専門家から見ると建替えに適した条件がそろったマンションでも、住民合意の形成は容易ではないことを示す事例です。
(3)修繕提案への不信が将来の検討を難しくした事例
東海地方の商業・住宅エリアで地下鉄駅近くにある中規模、築55年超のマンションです。長く自主管理を続けてきましたが、住民の高齢化を受けて管理会社に管理を委託しました。当時の保有資金は約1億円でしたが、委託後、高額な工事提案が相次ぎ、住民の間に、このままでは資金が急速に減少するとの不安が広がり、当社にSOSが入りました。その時、組合員の中では、「管理会社は割高な工事で儲けている」という声と「管理会社が入って管理の不安が減った」という声が大きく対立していましたが、管理組合の立場で公平なジャッジとアドバイスが欲しいとのことで、組合顧問に就任しました。その後、管理会社の工事提案内容と価格を再検証したところ、確かに、市場価格と比較して割高と判断される工事もありましたが、全体としては、自主管理から管理会社管理に移行したことで、組合運営の改善が図られているのも事実でした。そこで、管理組合の管理会社に対する信頼感の回復を図りましたが、「管理会社は、建て替えでの利益が最終目的ではないか?」との不信感を持つ住民の声が根強くあり、管理会社の変更に至りました。立地、建替え時の容積率緩和による戸数増加等の可能性、多額の保有資金など、住民負担を抑えて建替えを検討できる好条件が揃っていますが、「建替え」へのアレルギーが残るうちは、それを提案できる状況ではありません。現在は、修繕積立金の資金運用で積立金を増やしながら、次回の大規模修繕時に、修繕、更新、建替え、建物・敷地売却を客観的に比較し、最適な方針を検討する予定です。
参考:法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」/国土交通省「令和7年マンション関係法改正とこれからのマンション管理」
結び マンションの未来を住民自身が選べるように
修繕積立金は、建物を直すためだけではなく、マンションの将来を選ぶための大切な共同財産です。マンション管理相談センターは、管理組合の立場から大規模修繕工事の適正化と管理運営の改善に取り組んできました。大規模修繕工事の計画、業者選定、見積審査、工事監理から、日常の管理運営、長期修繕計画、修繕積立金の資金計画、将来の建替えや売却を見据えた検討まで、管理組合の判断を総合的に支援しています。大規模修繕工事は多額の共同財産を使う事業です。管理組合自身が納得して判断できる仕組みが必要です。工事の進め方や管理会社との関係、理事会運営にお悩みの管理組合は、マンション管理相談センターにご相談ください。
【参考】公正取引委員会(2026年9月28日公表):https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/sep/260928_daiyon.manshon.html
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